26WorldCup 2026北中米W杯
/
ニュースへ戻る
コラムOpinion

塩貝健人の発言を「本人が悪い」で終わらせてはいけない

ブラジル戦前の塩貝健人選手の発言は、相手への敬意を欠いたものとして海外で大きく扱われた。しかし、練習後に日本人記者へ語った率直な言葉が、メディアとSNSを介して増幅され、別の意味を帯びて届いた可能性もある。発言者だけを責めるのではなく、言葉がどう運ばれ、どう大きくなるのかを考えたい。

2026年6月30日 16:01約4分で読めるコメント可
シェア

塩貝健人の発言を「本人が悪い」で終わらせてはいけない

ブラジル戦の前に、塩貝健人選手の発言が話題になった。

ブラジルに対して「今はフランスだけが強いイメージで、そんなに強いイメージは持っていない」といった趣旨の発言をしたこと。ネイマールについても、「でもそれは昔のネイマールですよね。今は大丈夫だと思います」といった受け取られ方をしたこと。

結果として、日本はブラジルに敗れた。すると、あの発言が相手を刺激したのではないか、ブラジル戦に悪影響を及ぼしたのではないか、という話が出てくる。

ただ、私はこの件を「塩貝選手が悪い」で片づけるべきではないと思っている。

もちろん、公の場で話す以上、言葉には気をつけた方がいい。相手を明らかに侮辱する言葉、悪意を持って貶める言葉、リスペクトを欠いた言葉であれば、それは許されない。そこに線引きは必要だ。

でも今回の発言が、そこまでのものだったとは思わない。

これは会見で相手を煽った発言ではない

今回の発言は、公式会見でブラジルに向けて挑発したものではない。練習後に、日本人記者に対して、日本のメディア向けに語った言葉だったと理解している。

文脈としては、「相手がブラジルでも必要以上に恐れず、自信を持って戦う」という意味合いだったのではないか。

若い選手が、強豪国を相手に必要以上に萎縮しない。相手を巨大に見すぎず、自分たちにもチャンスがあると思っている。私は、そこにはむしろ気持ちのよさもあったと思う。

サッカー選手は、まずサッカーに集中すべきだ。試合前のインタビューで、どの言葉がどの国でどう翻訳され、どう切り取られるかまで、常に細心の注意を払い続けることが本分ではない。

もちろん、発言の責任が消えるわけではない。けれど、今回の件で一番考えるべきなのは、発言そのものよりも、言葉が運ばれていく過程の方だと思う。

メディアは言葉を小さくしない

メディアには、拡声器としての機能がある。

誰かの発言をそのまま小さく報じることは、ほとんどない。見出しにする時点で、少なくとも1.1倍、1.2倍ぐらいは強い言葉になる。さらに別のメディアがそれを拾い、海外メディアが翻訳し、SNS上の個人がまた強い言葉で拡散する。

そのたびに、言葉は少しずつ大きくなる。

最初は「自信を持って戦う」というニュアンスだったものが、途中で「ブラジルを軽視した」「ネイマールを過去の選手扱いした」という話になっていく。そこからさらに、現地の人が怒りやすい形に加工して広げる。サッカーは感情の強い分野なので、その増幅はさらに速い。

人やメディアを介すれば介するほど、声は小さくならない。むしろ大きくなる。これは今回の件に限らず、現代の情報流通を考えるうえで、かなり大事な前提だと思う。

勝敗への影響は誰にも分からない

あの発言がブラジル戦に影響したのか。

正直、それは誰にも分からない。

日本が勝っていたら、「あの発言がチームを奮い立たせた」と言われたかもしれない。負けたから、「相手を刺激した」と言われている面もある。後付けでなら、どちらの説明もできてしまう。

影響がなかったとは言い切れない。かといって、あったとも言い切れない。

ただ、負けたあとに原因として貼り付けやすい発言になってしまったことは確かだと思う。だからこそ、この件を単純な犯人探しにしてはいけない。

「余計なことを言ったから負けた」という話にすると、次に起きるのは、選手がみんな無難なことしか言わなくなる世界だ。

みんなが同じことを言うサッカーは面白いのか

最近は、SNSで炎上しないこと、バズるために整ったことを言うこと、誰も傷つけない無難な発言をすることが、表に出る人に求められやすい。

その結果、どの選手も同じようなコメントをするようになる。

「相手にリスペクトを持って」 「自分たちのサッカーをして」 「次に向けて切り替えたい」

もちろん、それ自体は間違っていない。けれど、全員が金太郎飴のように同じことしか言わなくなったら、スポーツはかなりつまらなくなる。

塩貝選手のように、率直で、骨太で、少し危うさもある若い選手は、今の時代にはむしろ珍しい。若い選手をチームに入れる意味には、そういう異物感やフレッシュさもあるはずだ。

サッカーは、人間の美しさを競う競技ではない。もっと本能的で、野性味があり、相手とぶつかり合うスポーツだ。だから、塩貝選手がきれいな優等生になる必要はない。

もっとも、彼は高校時代から成績も優秀で、慶應義塾大学に進学した選手でもある。優等生になる必要はないと言いながら、実際には十分すぎるほど優等生なのだが。

だからこそ、変に萎縮してほしくない。

悪意がなかったことは伝わってほしい

今回の件から、塩貝選手本人はすでに多くを学んでいると思う。頭のいい選手だろうし、外からああだこうだ言われなくても、言葉がどう伝わるかは十分に感じたはずだ。

だから、これ以上、必要以上に彼を責める必要はない。

むしろ大事なのは、私たちが情報の届き方にもう少し冷静になることだ。メディアやSNSで流れてくる情報は、多くの場合、元の発言より大きくなって届いている。特にサッカーのような感情の強い領域では、その拡大はさらに起きやすい。

発言者の意図だけで、届き方を完全に制御することはできない。だからこそ、強い言葉を扱う側にも責任があるし、受け取る側にも一呼吸置く余地がある。

塩貝選手には、これからも自信を持ってほしい。ヨーロッパのサッカーで上に行くことを考え、相手へのリスペクトと謙虚さは忘れずに、それでも自分のまっすぐさは失わずに戦ってほしい。

そして、ブラジルの選手たちにも、彼の発言に悪意がなかったことが伝わればいいと思っている。

関連リンク

大会形式、日程、会場などを詳しく見たい方向けのリンクです。

シェア
Chant をフォロー

試合のたびに更新する速報・コラム・世界の声を、タイムラインで受け取れます。

特集 — 物語で入るワールドカップ
注目記事と特集を開けます
コメント

楽しくサッカーを語る

公開前確認あり

投稿にはGoogleログインが必要です。サイト側ではメールアドレスや実名を保存せず、コメント欄ごとの匿名サポーターIDだけを表示します。コメントは公開前に内容を確認します。

コメント、いいね、イエローカードにはGoogleログインが必要です。
0/600
まだコメントはありません。